外国語における速度と瞬発力
2018/02/18
こんなツイートがあって、
学校英語の先生の中には、辞書を引きながら小説を読むのが好きという人が多いです。学生時代からの趣味でしょう。だけど生徒の将来を考えたら、経済書と研究論文と決算報告書は辞書なしで内容が把握できるようになってください。文学は人間理解を深めますが、経済的な見返りはありません。
— NYの会議通訳者が教える英語 (@NYCenglessons) 2018年2月14日
こういうことを書いたんよ。
つーか辞書一冊丸暗記するくらいじゃないと現場ではあんまり使えないよな。日本の学校の英語はそんなにスピード要求されないからこそ許される。 https://t.co/FPgFiXA7ap
— JUN@ベーシスト兼ライター (@JUN_XECSNOIN) 2018年2月14日
そういえば、ドイツに着いたその日、空港でまず思ったのは「こいつら全員何言ってるのかさっぱりわからねえ...」ということだった。一応学校内でのテストには合格して、その狭い世界の中では多少ドイツ語ができる方ではあったつもりだったから、なんというか軽くショックだった。あんまりわからないから空港から出るまでは英語で道を尋ねて歩いた。
何が原因かと言えば、まずその速さ。ん?今なんて単語だった?と思ってる間に相手は話終わってる。速さへの対応が全くできてなかった。
英語もドイツ語もどっちもでもそうだけど、日本の学校の授業ではそんなにスピードがいらなかった。むしろ教科書の単語全部を丁寧に把握・理解することが求められる。
ところが、現場に出るとそうもいかない。人間相手の会話では、えーこの単語の意味はこうで、これが前置詞で、ここにかかってこういう意味になるから...なんてやってる暇はない。
逆の立場だったとしても、相手が道を聞いてきたのに辞書を取り出してぺらぺらめくってたら、かったるいなと思うでしょ。
人間の会話の中で、特にネイティブ相手では単語一つ一つの意味を必ずしも全部把握しなくても良い。文節の要点が把握できればよくて、総体として意味が把握できるかどうかの方が問題になる。もちろん特定の慣用句や持って回った言い回し、抽象的な表現なんかには気をつける必要があるけれど。
だから、外国語の習得には、速度も必要。「外国文学の理解」であればまた話は別だけどね。本は待ってくれるからさ。
こないだ見た動画で、字幕があったにも関わらず速すぎて理解が追い付くのが大変だった動画がこれ。
これを字幕読まないでほいほいわかるレベルに達したら、その言語をそれなりに「使える」ということを言ってもいいんだろうと思う。
言葉の中身
そして、コミュニケーションというのは、向こうが何か言って、それに対してこちらが何かを返すことで成立する。
道を尋ねるだけでも「ここに行きたいのだけど知ってますか?」と聞き、相手が返してくる。それに対してさらに Alright, thank you. と返す。これでごく簡単なコミュニケーションが成立したことになる。
外国語を学ぶ人が地味に陥る罠が「話すことがない」だったりする。特に日本人は雑談が苦手だという話も聞く。そりゃそうで、学校では雑談の授業なんかないからね(笑)。
ところが、この雑談というのはけっこう大事だったりする。欧米人は「見知らぬ人に突然話しかける」ということにあまり抵抗がない。
道を歩いているだけで、「あんた日本人だろ!?」と言われたり、カフェで一人でコーヒー飲んでるだけなのに、道を歩いてるおばちゃんから「今日はあったかいわね」と話しかけられたりする。結構ビビる(笑)。
現地の語学学校でも受付で事務手続きの書類を出した拍子に「その服素敵ね」とか「黒い髪に黒い目っていいよね」とか色々話しかけられる。そこで話が弾むと、仲良くなって、次週の授業の選択でちょっとオマケしてくれて得したりする。
何気ない日常会話では速度も大事だけど、ゆっくりでもちゃんと受け答えすることがより大事だ。
そして、そこでは「何を話すか」という持ちネタの多さが関わってくる。
これを増やすには、シミュレーションをして、定型の言い回しのストックを増やしておくと良い。こう言われたらこう返す、こう話しかけられたらこう返す、というように。
慣れてくればそれにアレンジを加えたり、単語を入れ替えることで話を広げることができる。黙っているのが一番良くない。
話が続かなくても構わない。日本で外国人に話しかけられて、話の途中で突然向こうが脈絡なく「アナタ、トッテモイイヒト~」と言ったら、なんだこいつ?と思うけど、それはそれで話が続くじゃない?まあそういうことなんだよね。
結局、器だけ磨き上げても仕方がなくて、その中身、つまり何を話すか、ということの方がよほど重要だったりする。もちろん、よりきちんと相手に自分の発現を伝えるには、その器 (文法の正確さなど) も必要になるけど、やっぱり中身がまずあっての話。
語学学校での、自分の国を紹介してくださいとか、あなたを説明してくださいというような簡単なスピーチから始まって、ビジネスシーンでの商談や交渉における会話、あるいは特定のテーマについての講演。そういう場面になれば、「その人」が大事だ。
その人が何を言うのか、どういう表現で何を伝えるのか、それがないといくら文法の試験はトップなんですと言ったところで大した意味はない。
これは母国語でも同じなんだよね。面白いことを言う人には注目が集まるけど、学歴秀才かもしれないけど仕事させてみるとイマイチな人には評価はつかないわけで。
今挙げた項目のどれかがなくていいというわけではもちろんないけれど、順位付けをするとしたら、1.人間の中身、2.単語知識の量、3.レスポンスの速さ、4.文法の正しさ、てことになるかな。
ちなみに辞書を引くことが大事でないとは言ってない。単語知識の絶対量というのはどうしても必要だ。それを拾うには辞書より効率の良いものは今のところない。
辞書だって使い込んでいけば、側面が手垢で黒くになる頃には、狙ったページを見ないで開けるようになる (実話)。
一応個人的に目安にしてたのは、その言語で夢を見るということと、独り言がその言語で言えるということかな。向こうに行ってさらに半年くらいかかったけど。でもそれで一応現地で生活するのにはだいたい困らないという程度なので、外国語を「本気でやろう」と思ったら、それなりに覚悟決めないとね。