政治

香港で起きていることの意味


香港で大規模なデモが起きている。

■ 香港 「逃亡犯条例」改正反対デモ けが人70人超
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20190613-00000005-ann-int (テレ朝NEWS)

ここで焦点になっている「逃亡犯条例」というのは、日本で言う「犯罪者引き渡し条約」に相当する。

海外 (香港の外) で犯罪を犯した人が、香港にいることが分かった場合、香港当局が拘束して該当の国に引き渡すというもの。

すでに20かそこらの国相手にはこの逃亡犯条例が締結されているが、今回改正されると中国本土もその対象になる。

香港って中国じゃないの?と言う人のために香港の状況を補足する。

香港は、1898年から1997年までイギリスの租借地(植民地)だった。

これは、当時アヘン戦争で勝利した英国が南京条約により割譲させたものだ。

アヘン戦争は今の価値観で言えば言いがかりと言ってもいいようなたいがいな理由で開戦しているが、それを99年間忘れずに20世紀末に至って返還させた中国も別の意味で食えない存在だ。

そして、この1898年から1997年という約100年間は、二つの大戦を経て、近代的な法規範や民主主義が一般市民レベルに浸透していった年代であり、特に1945年以降は多くの植民地が独立を遂げた時代でもあった。

それゆえ、香港では英国の影響を強く受けた民主主義と自由主義経済の気風、法の支配に基づく法規範が残った特別行政区となっている。

香港では2047年まで一国二制度が敷かれ、高度な自治権、本土とは異なる法制度、自由主義経済が導入されたままになることが決まっている。

本土相手の逃亡犯条例が持つ意味

基本的なことを確認しておくが、中華人民共和国は日本とは国家の枠組みが全く異なる国であることを再認識しておく必要がある。

憲法には、「共産党の指示を仰ぐ」と憲法より上位に共産党が位置することが明文化されている。

十数億人を統べる共産党員はわずか約8000万人であり、その中のトップ七人による集団独裁体制が中国の体制だ。共産党の意向が最終的には全てに優先する。

つまり、「お前の顔が気に入らないから死刑」ができる国だということだ。

その国相手に逃亡犯条例を施行したらどうなるか。

逃亡犯というのは、その国で犯罪者と認定されるから「逃亡」「犯」になるのだ。

日本では、刑法に違反すると犯罪の容疑者になる。

一方中国では、憲法の上に共産党がいるので、特に反体制運動、民主化運動については公正な裁判が保証されない。

共産党が「こいつ犯罪者」と言えば、その人は犯罪者になる。

つまり、香港で中国の民主化運動に参加すると共産党から犯罪者に認定されるおそれがある。

ということで、香港人が大反発しているのは以下の二つの理由による。

■ 香港人の独立派が中国共産党から犯罪者に指定されると香港人自らにより拘束されなければならなくなるという、実際の身の危険を感じての反発。
■ 中国の反体制派が香港に逃げてきた場合拘束して送還せねばならず、中国の共産党独裁体制に手を貸さねばならないという道義的な反発。

いずれにしろ共産党の手が香港に入るということであり、一国二制度を瓦解させるものであることには変わりがない。

30年前の天安門事件でもすでに明らかなように、共産党は共産党独裁体制に歯向かう人民を殺す。

人民解放軍は共産党の軍隊であって、中国国民の文民統制下にある軍事組織ではない。つまり中国に国家の軍隊は存在しない。

今回のデモに対抗するために中国本土から人民解放軍や戦車が移送されている様子がSNSの各地で投稿されている。

体制に対抗するには命を賭けなければならないため、香港人の危機感は強く、その反発は大きい。

なお、この条例の改正は日本人にも適用される。

中国旅行の間に目をつけられたり、香港にいる間に民主派と関わったりすると、香港当局に拘束され本土に移送されて、共産党の息のかかった裁判を受けさせられる。

なので日本人にとっても他人事ではない。

地域ごとでのデモの意味の違い

人口約700万人の香港で100万人集まった(主催者発表)というから、日本だと1800万人くらい集まったことになる。人口の1/7というとんでもない数だ。

警察発表でも30万人は超えているということなので、どちらにしろ尋常な数ではない。

香港のデモは既に暴動化した部分があるので、人によっては既に香港の刑法に触れている可能性がある。

そしてこれは、中国が「共産党に歯向かった」と言って犯罪者認定をする口実になる。

香港のデモ参加者はこの条例が通ったら拘束され本土に移送される危険性がある。既に命がけだ。

自由の空気を100年吸った香港人と、独裁体制の共産党そしてその手先となっている立法府との闘いと言える。

一方、同じくデモという意味では、フランスの凱旋門前でいまだにやっている黄色いベスト運動(個人的には黄巾賊と言っているが/笑)はまた意味合いが異なる。

欧州では歴史的に専制に対抗して民衆のデモが体制を変えてきた経緯があるが、今回のはそういうのとは違う。

フランスでは景気が冷えてきて国民が困っているのに理想主義的なマクロン大統領がさらに税金を上げると言ったので怒り爆発というところだ。

これは民主制の中での話だし、話し合いによる解決の道はある。

ところが、香港対本土は主義主張、思想、イデオロギーの対立なので、解決は相当厳しい。

2047年まで一国二制度のはずだが、それを待たずに香港を呑み込みたい本土側と2047年までは現在の体制を維持したいデモ隊の間の溝は深い。

翻って日本のデモだが、日本ではデモの意味合いは、無いとは言わないが非常に薄いと言っていいだろうと思う。

なにしろそもそも国民がデモに興味がない。報道を見る限り、一万人集まるデモも数えるほどしかない。

選挙が機能しているし、政治と行政もぼちぼち機能している。香港のように完全普通選挙が実施されていないということもなく、ロシアのように大統領選に出ると言っただけで暗殺されるということもない。

政党は民意を気にするし、報道機関等により頻繁に世論調査が実施されている。投票に行くにも妨害されるということもない。

こういうところでは、デモなんかやる必要がない。選挙に行ってよりマシな候補者に投票すれば良いだけだ。

やりたいことがあれば立候補すればいい。法律の規定以外にそれを妨げるものはない。

以前韓国で大規模なデモがあって朴槿恵前大統領が退陣するに至ったが、あれは議会制民主主義が機能不全だからデモが起きたのであり、デモで政治が変わるから議会制民主主義が機能不全なのだ。

基本的には、デモをやらないでもよいようにするために、議会制民主主義がある。

個人的には、独裁制よりは民主制の方が良いと思っている。民主制が最善の政治体制では全然ないとしても。

銀河英雄伝説で問われたパラドックスだが、最善の独裁と最悪の民主制ではどちらが良いかという問いがある。最善の独裁が最悪の民主制を上回る可能性だ。

確かに第二次大戦後の復興期などにおいては、基本的には民主制だが要所要所でトップの独断と即決、すなわち開発独裁のような形態がベターなこともある。

しかしそれも体制を確立するまでの間の話だ。戦後70年以上経った現在では、日本では議会制民主主義がデモで動くことはあってはならないと考える。

ところで、2014年の通称雨傘革命が失敗したのはデモ隊による道路封鎖が長期化し、経済活動に支障が出たために本土との取引が無いと困る企業人などが離反し、結果鎮静化したという経緯がある。

香港も一枚岩ではないのだ。地理的な近さ、巨大な中国共産党という物理的な圧力、議会を握られているという不利さ、それに香港島以外に陸続きな部分もあり、本土との商取引、人的交流がが不可欠であるという環境要因。

香港の民主制の状況は相当に厳しい。

香港が陥落したら、次は台湾だ。台湾が堕ちたら、その次は、さあどこかな?

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