音楽

ボーカルはスペシャル


ライブステージについて色々考えていくにつれ、やはりボーカルの特殊な立ち位置を考えねばなるまい。

他の楽器奏者と比較して、ボーカリストは以下の点で異なる。

・言葉を使える
・演奏中に片手/両手が空いている

ボーカルの何が特別かと言ったら、やっぱり歌詞を直接発することができるという点だな。

他の楽器は音を発することで想像力を喚起するのだが、ボーカルは概念を含む「言葉」を発することができる。

この違いはとても大きい。

なぜかと言えば、今発しているものが指し示すものが何であるかをフロアにいる人間にほぼ具体的に投げることができるからだ。

もちろん、言葉は概念なので相手が受け取ってその言葉を把握して共有しないと伝わったことにはならないが、楽器の音色から想起させることの不確実性から考えれば、それはもう直接指示していると言ってもいいほどだ。

歌詞はメロディと相まって聴く人のイメージを直接喚起できる。なぜならそれは言葉だから。

それは楽器には不可能なことで、楽器の音色は発せられた瞬間にはドはドだしミはミでしかない。

ところが、言葉は発せられた瞬間、正確には聴き手が把握した瞬間に概念として相手の脳内に共有される。

この重大性、直接性は他の楽器にはない特徴と言える。

もう一つ、ステージではマイクを持っていない手がありうるという点。

空いている手の仕草により、歌詞のイメージを補強できる。

楽器のほとんどが演奏中は演奏のために両手が塞がっている。

身振り手振りがある程度自由にでき、それがイメージの補完につながる量は、他の楽器に比べてボーカルにはとても大きい。

支配と従属の関係

とりわけロック、メタル系のバンドのライブステージでは、ボーカルにはその空間の支配者の役割が与えられる。

それができるボーカルがいるバンドは良いライブができるし、そうでないバンドのステージはあまり印象に残らない。

どんなに有名なギタリストのソロプロジェクトのライブでも、ボーカルがいるからにはボーカルが先導者であることには変わりがない。

支配者、扇動者、先導者、アジテーター、リーダー、言い方は色々ある。

固定のボーカルがいるバンドでは、ボーカルが客を扇動しやすい。

なぜなら、先ほども書いたように、ボーカルは言葉を直接扱うことができるからだ。

歌詞にしろ、その間のアオリにしろ、直接フロアに指示を出すことができる。

むしろフロアのオーディエンスも、ボーカルという先導者に扇動あるいは支配されたがって来場している節がある。

ボーカルによるきちんとした統治とそれを受容するオーディエンスという関係が成立した時、会場にはとてつもない一体感が生まれる。

もちろんストイックに「こっちはこっちでやるからそっちは好きなように楽しんで」というステージのやり方もある。

ステージの規模が大きくなるほどに、ロックバンドからエンターテイメント性を排除することはなかなか難しい。

ライブ会場にいるオーディエンスは、なんだかんだいって、何らかの形でライブに「参加」したいと願っている。

それが叶えられるのが、コールアンドレスポンスだったり、手を挙げることだったりする。

そのための入り口の間口を広げてやるのがボーカルのアジテーションなわけで、それがあるからおとなしい性格の人や、初心者でもライブをより積極的に楽しめるようになる。

ワールドクラスやビッグネームのバンドのライブを見ていると、もうボーカル見ているだけで安心だし、とっつきやすいし、曲もわかる。

ボーカルが「ギター!」と言ってギタリストを指さしたら、「今からこいつがギターソロ弾くぞ」とわかる。

ネームバリューのあるバンドのライブはそういうところがキッチリ出されている。

それに、バンドメンバーがボーカルに先頭をでの指揮を預けている感じ、ボーカルがバンドメンバーを信頼して背中を預けている雰囲気というのは、フロアにもかなり伝わるものだ。

見る人によっては人間関係の濃淡まで見えたりする。

だからステージのボーカリストはステージの指揮者である必要もある。リーダーではなかったとしても。

そんなこんなでステージをやるからには、ボーカルに課せられる役割、期待される任務は多い。

楽器隊が風邪をひいてもなんとかステージをこなせることが多いのに対して、ボーカルは一発でノドをやられてしまう人もいる。(楽器隊が体調管理しないでいいという意味ではない)

そういうリスキーな生身の楽器であるにもかかわらず、ステージでの貢献度はバンド全体の評価に直結しやすい。

あと、ノドはフレットレスだしね。

だからって甘やかしていいかってわけでもないけど、楽器隊、ボーカル本人、オーディエンス、それぞれがお互いに適切なリスペクトが必要だなあと思う。

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